美案寄席について

落語好きが高じて、会を主催することになりました。
上方落語、江戸落語を問わず、若手からベテランまで、
幅広く落語の世界をお楽しみいただければと思います。
私たちには「美意の案配」という好きな言葉があります。
その“”と“”をとって美案寄席(びあんよせ)と名付けました。
【美意の案配『寓話』】
昔、ある小さな国に仲の良い王様とその家来がいました。
若い王様は賢く知恵のある家来をとても信頼しており、どんなことでも相談し、二人はいつも一緒でした。その家来の口癖であり、信条が『上天からの美意の案配』-何事も神様のおぼし召しであり大宇宙の意志である-ということでした。
 王様は狩が好きでよく二人で出掛けていました。ある日、二人はいつものように狩に出かけ、山の中に入って行きました。そこで獰猛なトラに出くわし、王様はそのトラを見事に倒しました。しかし、完全に死んでいなかったトラは王様が触ろうとしたとたん、襲いかかってきました。慌てて逃げたのですが、左手の小指を食いちぎられてしまいました。小指を失ってしまった王様は「今日は本当に運が悪い」と何度も繰り返しこぼしました。それを側で聞いていた家来が「王様、これはすべて『(上天からの)美意の案配』でございます。お悔やみなさいますな」と言うのです。小指を失ってしまった王様は怒って言います。「私が怒ってお前を殺したとしてもそれも『美意の案配』というのか!」「はい、王様。それでも『美意の案配』でございます」と家来は自信を持って笑いながら答えるのでした。家来は城の奥の牢に閉じ込められてしまいました。

 数日が過ぎ、王様は暇をもてあまし、仕方なく一人で狩に出かけました。いつもは道に明るい家来と一緒だったので安心でしたが、今日は一人です。いつの間にか王様は道に迷ってしまい、危険な野蛮人が住むという領地に入り込んでしまいました。この地に住む野蛮人は満月の夜に生きた人間をお供えする風習がありました。王様はあっという間に見つかり、捕えられてしまいました。若くて美しい王様を野蛮人たちはよい生贄が手に入ったと喜び、満月の夜を待つのでした。
 いよいよ満月の夜です。野蛮人たちは、完璧な状態で生贄を備える準備を始めました。すると最後の検査のとき、この生贄に小指がないことがわかります。これではお供え物になりません。野蛮人たちは生贄失格の王様を投げ出してしまいました。
 命拾いをした王様はほうほうの体で自国へ戻りました。そして王様は急いで家来を牢から出し、自分の身の上に起こったことを話しました。「本当にお前の申したとおり『美意の案配』であった。」と伝えました。そして、逆にこう問いかけました。「お前は牢に入れられて辛い思いをしたであろう。お前はなぜそれも『美意の案配』だと言えるのか?」家来はにこやかに答えました。「私が牢に入れられていなかったら、一緒に狩に行ったのは誰だったでしょう?もちろん私ですよね。もし一緒に行っていたなら二人とも野蛮人に捕らえられたでしょう。そして、私だけが生贄になったことでしょう。これはすべて『美意の案配』でございます。」
 これより先、『上天からの美意の案配』という信条を持って王様と家来は立派な国を作っていきました。